自家用有償旅客運送とは異なり、個人で介護タクシー(福祉輸送事業限定)を開業したい方や、法人にして訪問介護事業所などと併設で介護保険タクシー・訪問介護員等による有償運送(ぶら下がり許可)を目指す方のために、介護タクシー(福祉輸送事業限定)の営業許可の取得方法について、ここで要点を解説します。
介護タクシーの開業について気になる方はとても多いと思いますが、本記事を読んでいただいても当社では基本的に介護タクシー(福祉輸送事業限定)の開業に対して、特に積極的には問い合わせを対応しておりません。基本的に、既に世の中にある有能な記事や行政機関、行政書士さんなどを頼りにしてください。
ただ、世の中に少しでもお役に立てられるのでしたら、この記事は存在意義があると思います。
この記事を提供する目的は、あくまで訪問介護事業所等が行う訪問介護員等による有償運送(ぶら下がり許可)に関連する事項としてお伝えをするためのものです。ぶら下がり許可を取得する前提での、介護タクシーに関するお問い合わせは受け付けております。
介護タクシーは個人でも営業許可取得が可能
介護タクシー(福祉輸送事業限定)は、個人でも営業許可の取得が可能です。
もちろん、法人での開業でもOKです。法人の場合は、後述しますが介護保険適用の介護タクシーを実施したい場合には法人であることが必須条件です。法人でしか設立することができない、訪問介護事業所等の指定が必要です。
さて、そんな介護タクシーですが、二種免許を所持しているドライバーが1名必要です(申請者本人でもOKです)。福祉車両(福祉自動車)を運転する場合には、二種免許だけで問題ないのですが、セダン型(福祉車両以外)を運転する場合には、別途資格が必要です。福祉車両とセダン型との違いについては、こちらのページをお読みください。
福祉車両(福祉自動車)で送迎輸送を行う場合
2種免許の保有が必要です。
福祉車両以外の自動車(セダン型)で送迎輸送を行う場合
上記の福祉車両以外の自動車で介護タクシーの送迎輸送を行う場合には、以下の2つの要件(資格)を両方満たすことが必要です。
1つ目(運転免許)
- 2種免許
2つ目(ケア輸送サービス従事者研修修了または介護福祉士などの資格が必要です)
以下4つのうち、いずれか1つの要件(資格)を満たすことが必要です。
- ケア輸送サービス従事者研修の修了
- 介護福祉士
- 訪問介護員
- 指定居宅介護等の提供に当たる者として厚生労働大臣が定めるもの(居宅介護従事者)
上記のうち、介護福祉士・訪問介護員・指定居宅介護等の提供に当たる者として厚生労働大臣が定めるもの(居宅介護従事者)についての詳細は、以下の通りです。
- 介護福祉士
- 訪問介護員
- 実務者研修修了
- 介護職員初任者研修修了(看護師・准看護師・保健師を含む)
- 訪問介護員養成研修(ヘルパー)1級修了
- 訪問介護員養成研修(ヘルパー)2級修了
- 訪問介護員養成研修(ヘルパー)3級修了
- 介護職員基礎研修修了
- 指定居宅介護等の提供に当たる者として厚生労働大臣が定めるもの(居宅介護従事者)
- 居宅介護職員初任者研修修了
- 障害者居宅介護従業者基礎研修修了
- 居宅介護従業者養成研修課程修了(1~3級)
- 重度訪問介護従業者養成研修修了
- 同行援護従業者養成研修(一般課程)修了
- 国立障害者リハビリテーションセンター学院視覚障害学科
- 行動援護従業者養成研修修了
- 強度行動障害支援者養成研修(基礎研修および実践研修)修了
- 生活援助従事者研修課程修了
- 視覚障害者外出介護従業者養成研修修了(ガイドヘルパー)
- 全身性障害者外出介護従業者養成研修修了(ガイドヘルパー)
- 知的障害者外出介護従業者養成研修修了(ガイドヘルパー)
看護師・准看護師・保健師の方は、介護職員初任者研修を修了したものとみなされます。各都道府県の判断により、「看護師等の資格証」をもって代えることができるとされています。埼玉県では当分の間、看護師等の資格証で十分で、修了証明書は発行していません。一方で、群馬県などの場合は、県から修了証明書が発行されてから、訪問介護員として従事することが可能になります。
居宅介護従業者の資格要件については、東京都福祉保健局(ふくむすび)のホームページ上で公開されているものから主たるものを抜粋して掲載しています。
介護保険適用のタクシーを開業するには?
法人化が必要です。そして、介護タクシー(福祉輸送事業限定)の許可だけではなく、別に訪問介護事業所等の指定が必要です。
介護保険タクシーの営業ができない状態だと、利用者の全額自己負担による送迎を請け負うことができます。
介護保険タクシーが提供可能になると、ぶら下がり許可が取得可能
訪問介護事業所等を設立した場合には、登録ヘルパーさんに白ナンバー・黄色ナンバー登録の自家用自動車を使用してもらい、
- 介護保険タクシーと同様に、介護保険などの報酬(乗降介助などの部分に対する報酬)
- 介護タクシー(福祉輸送事業限定)で認可された運賃
を適用しつつ、訪問介護員等による有償運送(ぶら下がり許可)というものを実施することができます。
ただし、白ナンバー・黄色ナンバー登録の自家用自動車による、訪問介護員等による有償運送では、利用者の全額自己負担による送迎はできないのですが、こうした送迎業務があるという部分はひとつポイントです。そして、登録ヘルパーさんには初回のみ(一度)、福祉有償運送運転者講習を受講していただければ資格要件としては問題ありません。
訪問介護員等による有償運送(ぶら下がり許可)について、詳細はこちらの記事をご覧ください。
介護保険以外には?
障害者総合支援法に基づくサービスとしての運送(個別給付での通院等乗降介助など)も、上記の介護保険適用の送迎と同様に介護タクシー・訪問介護員等による有償運送(ぶら下がり許可)での対応が可能です。
詳細は、以下の記事でまとめました。
介護タクシーの開業を行う上でのポイント(要点)
介護タクシーの開業を行う上で、最低限のポイントをまとめましたので、以下の通りにご案内いたします。
サービスを利用できる人(送迎可能な人)
以下のように定義されていて、本人とその付添人が利用できるとされています。この点は、自家用有償旅客運送の福祉有償運送に似ていますが、詳しく見ていくと相当に異なります。
- 身体障害者手帳の交付を受けている、身体障がい者
- 介護保険法による、要介護認定者
- 同じく介護保険法による、要支援認定者
- 肢体不自由、内部障害、知的障害及び精神障害その他の障害を有する等により単独での移動が困難な者であって、単独でタクシーその他の公共交通機関を利用することが困難な者
- 消防機関又は消防機関と連携するコールセンターを介して、患者等搬送事業者による搬送サービスの提供を受ける患者(後述する民間救急(患者等搬送))
つまり、介護タクシー(一般乗用旅客自動車運送・福祉輸送事業限定)の場合は、身体障がい者・要介護認定者・要支援認定者・消防機関から搬送依頼を受けた患者の方については、「単独での移動が困難で、単独でタクシーが利用できない場合」という条件が付かず、歩ける人でも問題ありません。
送迎可能な輸送エリア
介護タクシーには営業区域というものが設定されていますが、原則として都道府県(北海道は運輸支局の管轄区域、沖縄県は島しょ)単位となります。利用者の出発地または到着地のどちらかが、営業区域内にあれば問題ありません。
ただし、都道府県の境界に接する市区町村に営業所を設置する場合は、特定の条件はあるようですが地方運輸局長が適当と認める場合は、隣接市区町村を営業区域とすることができるようです。ただし、期限は2年間です。
運賃について
運賃と運賃以外の請求可能な費用について、一例を挙げます。
乗車中の運賃
新たな運賃申請には1ヶ月かかります。介護保険適用外(いわゆる自費)の場合には、自動認可運賃(ケア運賃)となります。介護保険適用(要ケアプラン)や介護給付適用の場合には、介護運賃となります。ケア運賃は、運輸局が地域ごとに定めた自動認可運賃の範囲内で設定するのに対し、介護運賃は事業者が比較的自由に設定が可能です。
- 自動認可運賃(ケア運賃)
- 全額自己負担(もしくは福祉タクシー券利用)の場合の運賃
- 介護運賃
- 介護保険適用もしくは介護給付適用の場合の、介護タクシーもしくはぶら下がり許可(訪問介護員等による有償運送)での運送の場合の運賃
- 民間救急運賃
- 消防機関又は消防機関と連携するコールセンターを介して、患者等搬送事業者による搬送サービスにより患者の輸送を行う場合の運賃(民間救急(患者等搬送))
運賃設定には距離制運賃・時間制運賃があり、距離制のみを採用する場合はタクシーメーター器は必要ありません。タクシーメーター器の価格は最低でも10万円~15万円ほどで、毎年維持費がかかります。距離制運賃は短い距離の方には役立ちますが、旅行など団体顧客等を対応する場合には時間制運賃が良いでしょう。
利用者は、市町村が配布する福祉タクシー券の利用が可能な場合があります。福祉タクシー券が利用できる事業者として登録するには、各市町村に申請が必要です。
乗車中以外の費用
一例として、
- 迎車回送料(請求するかどうかは、事業者が自由に設定できる)
- 予約料
- 待機料金
- 介助料(請求するかどうかは、事業者が自由に設定できる)
- ヘルパー人員料金(運転手以外に介助者が必要な場合)
- 看護師同乗料金(運転手以外に看護師が必要な場合)
- 車いす、ストレッチャーなどの機器使用料(レンタル料)
- 障害者割引(1割引)
- 深夜割増(2割増)
といったものがあります。
介護保険適用や介護給付適用の場合には、所定の単位数に基づいた介助料が割引となります。
許可取得までに必要な日数
2ヶ月(運賃申請に1ヶ月)
注意すべき条件
開業する上で、様々な注意すべきポイントはありますが、おおむね以下の通りと考えられます。
- 運転手の欠格条件
- 基本的には、有償運送と同じく過去2年以内に免許停止になっているなどの条件があります。申請者が法人の場合は、役員全員が欠格要件の対象者です
- 運転手は、運転適性診断(旅客)の受診が必要です
- 自動車を新たに購入するときは、見積もりのみでOK
- 自宅やマンションの一室でも、要件を満たせば営業所として利用可能
- 賃貸の場合は事業用で契約
- 建築基準法・都市計画法・消防法・農地計画法などの他の法令に抵触していないかも確認しましょう
- 営業所の契約期間が3年未満の場合、契約期間終了時に自動的に契約期間が更新できればOK
- 事務所と休憩施設をしっかり分ける
- パソコン、電話機などの適切な設備を設置する
- 運送約款と料金表は掲示する
- 応接スペースを設置する
- 車両保管場所は、営業所から直線距離2km以内であること
- 介護タクシー専用の駐車場にしてください
- 洗車用の水道といった、清掃のための施設が必要(無理な場合は別の場所を確保すること)
- 前面道路が約4メートル以上必要です(車両制限令)
- 運行管理責任者、整備管理責任者、指導主任者、苦情処理責任者を選任してください
- 同一事業所内に事業用自動車が5台以上の場合は、有資格者の運行管理者・整備管理者が必要
- ぶら下がり許可の場合は、同一事業所内に事業用・自家用自動車の合計が5台以上の場合は、有資格者の運行管理者のみ必要(整備管理者の有資格者は不要)
- 準備資金を確保する
- 車両費・建物費などの所要金額の50%と、事業開始当初に要する資金の100%の残高証明など
- その他にも、車両購入費や人件費の数カ月分など、必要な資金を確保しておきましょう
- 補助金などの制度を事前確認
ほかにもありますが、上記をチェックしておきましょう。
前面道路について
一度でも自家用車の車庫証明が下りていた実績がある場合は、前面道路が規定より狭くても運輸局と交渉することができます。
介護タクシー(福祉輸送事業限定)で日々行うべき運行管理業務
介護タクシー(福祉輸送事業限定)では、許可を取得した後も日々の運行管理が重要です。
まず、車体両側面に所定の車体表示が必要で、同時に車内表示も必要です。
ここでは一例のみ取り上げますが、日々行うべき運行管理業務(ぶら下がり許可と同様)や、管理すべき書類などがあります。運転者へのアルコールチェックも、ぶら下がり許可と同様に必要です。使用するアルコール検知器は、国家公安委員会指定のものではなく国土交通大臣が告示で定めるものですが、呼気中のアルコールを検知し、その有無または濃度を警告音・警告灯・数値等により示す機能があれば足り、特に性能上の要件はありません。
詳細は、国土交通省の自動車総合安全情報のホームページをご覧ください。
重大な交通事故が発生した場合は?
介護タクシー(福祉輸送事業限定)・訪問介護員等による有償運送(ぶら下がり許可)ともに、自動車事故報告規則に基づく、運輸局への事故報告が必要です。
民間救急とは
消防署の無料で行う救急車搬送に対して、許可や登録を得た一般旅客自動車運送事業者や自家用有償旅客運送事業者が、転院や入退院、通院などの緊急性がない場合に搬送を行う民間の搬送事業者です。
民間救急の乗務員は所轄消防署の『患者等搬送乗務員』適任証を携えた原則2名が乗務します。そのうち、2種免許の運転者が運転を行います。患者等搬送乗務員になるには、患者等搬送適任者講習を受講し、患者等搬送乗務員適任証の交付を受ける必要があります。
民間救急の車両は、所轄消防署より車両仕様および積載資器材の審査を認定された「民間患者等搬送車」で、認定マークのシールが貼られています。
個人で依頼すると自己負担ですが、自治体による委託であれば公費で賄われます。全国で1,300以上の事業者があります。
救急搬送(サイレンを鳴らしたり、赤信号で直進)や、医療行為を行うことはできません。
介護タクシーでは、救援事業を行うことができる
介護保険適用外ですが、一般のタクシーや介護タクシー事業者(一般乗用旅客運送事業者)には、救援事業というものが定義されています。運輸支局に届け出をして許可を得ることが必要ですが、保険外サービスとして所定の運賃を得ながらお買い物代行・薬取り代行・忘れ物受け取り・電球交換などの業務を行うことが可能となります。
自家用自動車による有償運送では、このようなサービスは定義されていません(実施することができません)。
介護タクシー(福祉輸送事業限定)の許可申請は
関東運輸局の場合、こちらのページで概要や申請書類などが入手可能です。
また、インターネットで検索すると様々な開業における助かる情報がありますので、既にある有能な記事(現行でも対応できるものかどうか、信頼できるものかどうかなどの精査は自分で必要)や、自分で申請が難しい場合は行政書士などの専門職の方が、きっとあなたの助けになるでしょう。
書籍では、以下のような参考資料があるようです。現在は紙媒体としては存在せず(中古本のみあり)、電子版のみあるようです。
【最後に】この記事を読んでいただいたみなさまへ
この記事を読んでいただいて、みなさまの現場でお役立ていただければ大変うれしく思います。
また、記事をお読みいただいた方から、時折当社へ「福祉有償運送」や「訪問介護員等による有償運送(ぶら下がり許可)」などの許認可申請に関するご質問やご要望をいただくことがございます。しかしながら、ある程度以上のお話しになった場合には、該当する許認可申請などについては、必ず管轄の行政機関へ直接お問い合わせいただくようにご案内させていただくか、もしくは行政書士へお繋ぎをするなどの対応させていただく場合がございますのでご了承ください。
当社では行政書士が不在のため、一定の内容以上の許認可申請にかかわるお話しになった場合については、上記の通り回答できない場合がございますので予めご容赦いただくますようお願い申し上げます。